国信大でのヘリコプター弦楽四重奏曲の公演は現実的だったのか

今日(10/14)、国際信州学院大学総合音楽研究部により「秋の現代音楽祭『変容するヨーロッパ』」と題して演奏会が行われました。

https://twitter.com/Kokushin_onken/status/1045371367355375617
秋の現代音楽祭『変容するヨーロッパ』開催のお知らせ

コンピューター同好会の人たちは僕も含めてあまりこういうコンサートに興味なかったのですが、今回のコンサートはなかなか見ることができない貴重な曲目もあるとのことで聞きに行くことにしました。というか部室に音研の人がチケット売りに来たのでつい買っちゃったんですけどね・・・

風変わりな曲やちょっと不気味!?な曲調の曲が多く(特に後半)、不思議なコンサートでした。そして今回のコンサートの目玉で一番最初の曲であるヘリコプター弦楽四重奏曲が今までにない演奏形式で新鮮でした。

なんと演奏者がヘリコプター四機に分乗し、演奏開始→離陸→着陸→演奏終了で約30分、飛んでいるヘリコプターから演奏を映像中継してコンサートホールで見るという斬新な演奏でした。

ヘリコプター演奏の実現方法を考える

ただ、僕は好奇心が旺盛なのでこういう日常離れしたものを見ると裏側が気になって素直に芸術を楽しめないタイプです。公演よりも公演を支える(工学的な)技術に関心がいってしまいます。理系な人間の性なのでしょうか・・・
そこでどうやってこの演奏を実現するのか考えてみました。

ヘリコプター演奏を実現するためにクリアしなければならないポイントは主に3つあります。

  • ヘリコプターをチャーターする
  • ヘリコプターが離着陸する場所を用意する
  • ヘリコプターからコンサートホールへリアルタイムに映像伝送するシステムを構築する

順番にクリアしていきましょう。

ヘリコプターをチャーターする

当然ですがヘリコプターが必要です。会場である国際信州学院大学のコンサートホールまでヘリコプターを回送し、約30分の演奏時間コンサートホール周辺を飛行し、終了後ヘリコプターの拠点まで回送する必要があります。しかも4台も。準備なども考えると回送時間+1時間くらいは飛行時間が必要かと思われます。

キャンパスのある安雲野から一番近いヘリの拠点といえば松本空港(信州まつもと空港)ですよね。松本空港のHPを見ると松本空港にはヘリコプターを運行してる会社が二社あります。(東邦航空株式会社と新日本ヘリコプター) どちらも物資輸送がメインのようです。ヘリは足らなければ別のところからヘリを持ってくる必要があります。東邦航空は長野ヘリポートにも拠点があるようです。

ヘリをチャーターするのにはおいくら万円かかるのでしょうか。

適当にググったら知恵袋経由で参考料金一覧のページにたどり着きました。
アークEFI航空情報センター 航空機チャーター事業部(参考料金一覧)
乗務員を除いて1人しか乗れないような小型のヘリなら一時間8万円台からあるようですが、基本、1時間あたり数十万円はかかりそうですね・・・
4台で100〜200万はしそうです。僕はそんなにたくさんの諭吉を見たことがありません。

ヘリコプターが離着陸する場所を用意する

ヘリコプター弦楽四重奏曲は離着陸も演奏の中に入っていますからヘリが安全に離着陸できるスペースが必要です。

大学HPのアクセスのページに掲載されている周辺地図からコンサートホール周辺を見てみます。

コンサートホールの近くでヘリコプターが離着陸できる場所といえばこくしん広場とこくしんフィールドと3号館の後ろにあるヘリポートくらいですね。4台分くらいのスペースはありそうです。こくしん公園は平地じゃないので駄目です。

ただし、ヘリだってれっきとした航空機ですから、空港でもないそこら辺の土地に自由に離着陸できるわけではありません。

航空法 第七九条 (離着陸の場所)
航空機(国土交通省令で定める航空機を除く。)は、陸上にあつては空港等以外の場所において、水上にあつては国土交通省令で定める場所において、離陸し、又は着陸してはならない。ただし、国土交通大臣の許可を受けた場合は、この限りでない。

そのため、場外離着陸場として離着陸する場所を事前に管轄の空港事務所(長野県なら東京空港事務所)に申請し、許可を得る必要があります。

離着陸する場所は許可さえ取れたら特に問題ないと思います。

ヘリコプターからコンサートホールへリアルタイムに映像伝送するシステムを構築する

コンピューター同好会としてはここが一番気になるポイントです。

演奏者はヘリの中で演奏しますが、観客はコンサートホールの中にいるのでヘリの中の演奏を映像でコンサートホールへ中継する必要があります。
映像、しかもコンサートホールホールへの中継に耐える解像度の映像を中継するにはそれ相応の帯域を有する安定した伝送経路が必要です。

伝送経路が有線で大丈夫な場合はそんなに問題ないと思います。HDMIは短距離しか使えませんが、BNC接続の同軸ケーブルで映像を伝送するSDIなど長く伝送できる規格があります。また、LANケーブルをハブをかましつつ引き回せば手軽に通信経路が確保できます。IPで通信できれば色々方法がありますよね。ちなみに業務用ならNDIっていう動画伝送プロトコルがあります。(ffmpegも組み込んでビルドすれば対応できるっぽい)

でも今回はヘリから中継するため、無線で送らないといけません。テレビ局の報道ヘリとかはマイクロ波回線や衛星回線を使っていますが、コンサートのためだけに簡単に手配できるものでもないですよね・・・。アマチュア無線扱いでデジタルTVの規格(DVB-Sなど)で映像を送るのも前例はあるものの容易ではなさそうです。(手段と目的が逆転する)

映像を自分たちの手でなんとかできそうで大きなコストもかからなそうな方法、それはやっぱり携帯回線を使うのが一番ですね。
特にひねりのないありきたりな手段になってしまいましたwww
21世紀になってもうすぐ18年、LTEやWiMaxの普及で広帯域移動回線が誰でも簡単に身近に使っている時代になりました。

携帯回線は基本的にQoS制御(通信の優先度を制御)できないし混雑すれば遅くなったりしますが、複数回線を用意して束ねて映像のバッファも余裕を持たせておけば少々の遅延はありますが実用に耐えるんじゃないかなと思います。複数回線を束ねるソフトも実際色々ありますし、無制限WiFiルーター(LTE回線)を1日単位で借りることもできます。

コンサートホールのスクリーンを1080pくらいと考えたらヘリ1機あたりの映像は720pあれば十分でしょうし、H.264なら10Mbpsあれば足りるでしょう。
僕は以前、スマホでWiFiオフのままうっかり地デジの生TS(20Mbps前後)をストリーミング再生してしまったことがありますが、WiFiオフに気づくまでの少しの間ですが普通にスムーズに再生されました。(物凄い勢いでギガをドブに捨ててしまいました(泣))
やっぱりLTEは高速です。

安雲野は田舎ですが山間部を除いてしっかりLTEのエリア内です。

演奏者同士が合わせるために他の演奏者の音を演奏者に流す場合は原始的にFMで飛ばせばいいと思います。(音質は重要ではなく、遅延はNGなため)

最後に

ヘリコプター弦楽四重奏曲を国信大で公演するのは現実的に難しいかなと思っていましたが、ヘリのチャーターさえできれば多少の手間はあれど意外と難しくないことがわかりました。

意外と難しくないっていうのは物理的な意味であって、実際演奏する方々にとってはとても難しかったのではないかと思います。ヘリの中では騒音も大きく、楽器の音や他の演奏者の演奏も聞こえづらいですしね。

安雲野市文化振興財団が後援していますし、(おそらく)信州初ということで学外からの鑑賞者も多かったので、多くの人の期待の元で無事公演が成功しました。

総合音楽研究部の皆さん貴重なコンサートをありがとうございました!

僕はヘリの運行のことは全くわからないですし、映像関係の技術についても実務的な知識はありません。実現するための考察について、なるべく正確性を期していますが、適当にググって得た情報がベースのでそのつもりで読んでください。また、文中の企業、機関等はコンサートとは無関係なので問い合わせたりとかはしないでください。

10月17日追記

今回の演奏会の感想を丁寧に記事にされたブログがあります!
この芸術にマジレスするような現実的な記事では演奏会の面白さが伝わらないと思いますので、合わせてお読みください。

各停日乗 ヘリコプター弦楽四重奏曲の日本初演を聞く

コンサートの様子を事細かく書かかれているため演奏会に行かなかった方も雰囲気を感じ取れると思います。